かつて、送りバントは試合の流れを作るために欠かせない戦術とされていました。特に、日本のプロ野球では「1点を確実に取りに行く」ことが重視され、得点圏に走者を進めるための基本的な戦術と考えられていました。
ランナーが出塁すると、次の打者がバントで進塁させ、より得点の可能性を高めるというスタイルが、長い間「勝利の方程式」の一部として採用されてきたのです。
この戦術が重視されていた背景には、日本野球特有の「スモールベースボール」という考え方があります。アメリカのメジャーリーグ(MLB)に比べ、日本のプロ野球はホームランが出にくい環境にあり、試合展開も投手戦になりやすい傾向があります。
そのため、一発で大量得点を狙うよりも、少しずつランナーを進めて確実に得点を奪うことが求められてきました。送りバントは、そのための有効な手段として、多くのチームで採用され続けてきました。
近年、送りバントの有効性に対する疑問が浮上しています。その背景には、野球の戦術がデータ分析を基に再評価されるようになったことが挙げられます。特に、セイバーメトリクス(野球の統計学的分析)の発展により、送りバントが本当に得点期待値を高めるのかが客観的に検証されるようになりました。
統計的なデータを分析すると、送りバントを行った場合の得点期待値は、打者が普通に打った場合と比べて低くなることが多いことが分かっています。
無死一塁の場面で送りバントを成功させた場合、確かにランナーは二塁に進みますが、一つのアウトを献上することで得点の可能性を狭めてしまうことになります。
一方で、打者が強く打つことでヒットや四球を得る可能性を考慮すると、送りバントをしないほうが結果的に得点につながることが多いという結論が導き出されました。
この考え方は、特にメジャーリーグで顕著に表れています。MLBでは、近年のデータ分析の進化に伴い、送りバントがほとんど行われなくなりました。
かつてはナショナルリーグのピッチャーが打席に立つ際に送りバントを多用するケースが多かったのですが、DH制(指名打者制度)の普及もあり、送りバントの頻度は大きく減少しています。
また、ホームランを含めた長打を狙うことが得点期待値を高めるという考えが浸透し、送りバントは「勝利のために必須の戦術ではない」と考えられるようになりました。
とはいえ、送りバントが完全に不要な戦術というわけではありません。試合展開やチームの戦力によっては、依然として有効な場面が存在します。例えば、接戦の終盤では、1点を確実に取りに行くことが重要になり、送りバントが有効な手段となるケースがあります。
特に、リードしているチームが追加点を奪う場面や、同点の試合でサヨナラのチャンスを作る際には、送りバントの重要性が再認識されることが多いです。